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ロック評論家 ROHITOのブログ

ROCK CLASSIC

ザ・ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』
The Beach Boys『Pet Sounds』

―密室トリックの謎―

    三十路を過ぎてから、白髪がちらほらと出始めて、あぁもう年だなと思う今日この頃。しかし、こういう発言は後期高齢者に中指を立てるような発言になるので、差し控えよう。でも、なんだかなぁ...。


    世の中のすべての謎が解き明かされる中。ホームズやポアロにも解けない謎がまだ残っている。それは、1966年に米国のロックバンド、ザ・ビーチ・ボーイズによって生み出されたアルバム『ペット・サウンズ』の中での密室トリックだ。いや、本当にトリックを使っている訳では無い。ただ、安易な言い方をすれば、あまりにも美しいこの作品はその鮮度を保ったままで2017年に存在している。今回はその謎を少しでも解ければいいなと考えている。
 バンドの中心人物ブライアン・ウィルソンは部屋に籠って一人でこの作品を作った。これは密室と言っていいだろう。現在でいう引きこもり状態。いい意味での。そして、大抵こういう方に「孤独を感じたか?」と聞くと答えはNo.だ。なぜなら彼は音楽家として孤独を愛していたからだ。でないとここまで常軌を逸した名作を一人で作る気なんて起きないだろう。でも、だからこそ、孤独を感じているリスナーへ突き刺さる音楽に成り得たともいえる。孤独を愛した芸術家が孤独な人々を救う作品を作り出したのだ。本作は発売当時、ブライアンの母国ではあまり評価されなかったという。独り相撲な論争になるが、おそらく、この当時のアメリカ国民は孤独では無かったに違いない。
 まさに、ブライアン・ウィルソンこそ孤独の代弁者たる人物だろう。特に本作に溢れるメロディー・ラインは何人をも救ってきたのではないか。そして後進のアーティストたちに影響を与え続けていることも明白である。それは日本のミュージシャンも然りで、この作品からの参照点が多数見受けられる。しかし、本家である彼の作る旋律、その異常な美しさは誰にも凌駕されていないと思える。
    日本のロックシーンの孤独の代弁者たる人物をあげるなら、BUMP OF CHICKEN藤原基央を差し置いて語る訳にはいかない。おそらく彼に孤独を愛しているかと聞けばYES.と答えるのではないか。
    孤独を愛しているが故に、生み出された曲がある。それがよくわかる部分が「太陽」という曲の歌詞。”もう一度 朝と出会えるなら 窓のない部屋に 人間が一人/ドアノブが壊れかけていて/取れたら最後 もう出られはしない/出れたら最後 もう戻れはしない” 孤独を愛しながらも外界と接することを求めていた人物は、あと一回しか使えないドアノブを握り、葛藤する瞬間を描いている。孤独を愛する者はいつもその地点で揺れ動いているのだろう。藤原基央、そしてブライアン・ウィルソンも。
    この『ペット・サウンズ』は彼が孤独を愛し続けた果てに、生まれたものなのだ。そして、作品は1966年のリリースからずっと、密室の中に幽閉されたままなのである。何故ドアが開けられなかったのか?
    その後、彼は『ペット・サウンズ』が当時のファンに評価されなかったことや、次作『スマイル』が完成まで行き着けなかったことをきっかけに精神を病み、本当の引きこもりへ。以後20年近く音楽シーンの最前線から遠ざかってしまう。
    ひいては、この究極のマスターピースが彼自身を苦しめる結果となったのだろうが。僕はもう一つの意味として、『ペット・サウンズ』をずっと閉じ込めておくために必要な年月だったと考える。それには、ブライアン自身も一緒に寄り添って、再春館製薬所のように見続けなければいけなかったのだ。
    謎はすべてとけただろうか。幽閉され、閉じ込められたこの作品は、成熟し遂に発酵して始めた。それは今も続いている。
    ブライアンは自分の身をもって、『ペット・サウンズ』を発酵させた。そして今の僕達に発酵物たる本作を届けてくれたのだ。
    しかし、何故今になっても孤独の代弁者たるブライアンの作った作品が僕たちを揺さぶり続けるのだろう。でも今だからこそ、なのだ。所謂、ネットで繋がり分断された世界は新たな孤独を生み出した。それを少しでも救うために孤独の代弁者が歌う音楽が必要なのだ。“I Just Was Made For These Times”と言って欲しい。


    謎と言える程の事ではなかったが。本作の密閉トリックの謎は、作品を発酵に導くための過程だったということで解決した。
―――しかし、まだ解決してない謎が残る。仮にこの長い時間の刻印無しに、『ペット・サウンズ』の封を開けた場合はどうなっていたのか?クソみたいな作品だったか?そんな訳はないはずだ。
    その答えは君が解いてくれ。ただヒントをやろう。つまり、時間は一瞬に過ぎるということ。待つことほど楽しい事はない。まだ死んじゃだめだ。まだ出しちゃだめだ。まだ、オルガズムに達しちゃだめだ!
最高の瞬間はもうそこまで来ている…
    さあ、君も覚悟が出来たかい?
じゃあ、そこの玉手箱を開けてみなさい。
それでは、私はこのへんで。ではまた。