DISC REVIEW

踊ってばかりの国

『君のために生きていくね』

 

―消えた玄人と増え続ける素人―

 

日本では玄人が消えていき、素人が増えてきている。それは色んな職業の人の現状を見ればわかる。汚職刑事や教師の犯罪。本来プロでなければいけない人たちが、プロとしてあるまじき行為をする。そういうのが日常の出来事になってしまった今日この頃。そしてロックミュージシャンもご多分にもれず、玄人が消えてきているようだ。職業としてのロックミュージシャンが増えてきていると思う。それも正しいし、間違ってはいない。職業の選択肢が増えることはいいことだ

 

そんな中であくまでも、生々しいロックミュージシャン像を体現し続ける一人が、踊ってばかりの国の下津光史だ。

 

今作で生々しいロックミュージシャン像が顕著に表れている曲が何点かある。まずM1「Boy」で描かれる古典的なロックの価値。“パパとママにはずっと内緒だぜ”の代名詞が消えて、幾年が経つだろう。ロックの持つ懐かしい風景を見せてくれる。M15「プロテストソング」はロックの根源的なパワーを象徴する曲だ。下津のシャンソンのような歌い出しから、一気にバンド・アンサンブルが渦巻いていく。ここで歌われている政治的抗議は、社会によって奪われた“友”への悲哀と捉えることができるだろうか。それに対して「無償の愛」をささげられるのもロックの醍醐味である。最後はボーナス・トラックでもあるM16「美しい春」。ワルツの調べと共に、ロックの究極のスタンダードであり、今なお色あせることの無い“半径5m以内に存在する人への愛”を提示する曲で締めくくられる。

いかれた奴が正しい奴だとは言わない。でも『君のために生きていくね』のような本当のロックを歌えないロックミュージシャンは、即刻リングから降りてもらいたいとも思う。

 

まあ、でも、これを書いている私も素人なので、即刻退場の憂き目に遭うことは火を見るよりも明らかだろう。