DISC REVIEW

さユり

『め』

産業革命万歳―

 

 さユりという存在が登場してから数年がたったが、何かしら懐疑的な見方をしていたようだ。ギター片手にシンガーソングライターをしている福岡県出身の女性アーティスト。「酸欠少女」というキャッチコピーで、絶望から希望を作りだす曲を歌う彼女に名だたる著名ミュージシャンも楽曲提供しているという。そういった完璧なマーケティング手法に包まれたものに対して、どうやら色メガネで見ていたことは否めないだろう。

 今作は初めての弾き語りのみで作られたアルバム。上京後に路上ライブを行っていたこともあるので、いうなれば原点回帰的な作品ともとれるだろう。しかしながらこの作品がコロナ過の最中に生み落とされたのは偶然だったといえるのか。もちろんベスト的な内容で出すなら弾き語りで、という当初からの構想があったのかもしれない。しかし、推測するならば、2020年において最終的なライブでの表現を考えたときに色々な制約が出てくることを考慮した上で、弾き語りという形態をとったのではないか。

 結果的にこの弾き語り作品によって、さユりの本当の力量があきらかになったと言っても過言ではない。もちろん野田洋次郎が楽曲提供した「フラレガイガール」の破壊力は計り知れないのだが、それ以外の曲も本来のアレンジを取っ払ったことでさユりというシンガーのコアが生々しく出現してしまっている。つまり幸か不幸か、コロナという存在が音楽家を非定常な地点に追いやったことで新たなる価値が生まれ、それ自体がさユり自身のロック的なアティチュードを示すことになっている。

 《次の問いのまたその後の/決してほどけない知恵の輪の/語りつくされた物語/書き写すだけはもうしんどい》(I・N・M/Syrup16g)

さユりはこれからも書き写すことをヤメない、そんなアーティストだと思う。