DISC REVIEW

Official髭男dism

『Hello-EP』

 

―旅立つすべての人のために―

 

高音ボイスはいつもポップに有効である。ボーカル・ピアノの藤原聡の声は正にそう。でも、なぜ『Hello-EP』というタイトルになったのだろう。

ピアノPOPバンド、Official髭男dismのサードEPは、エモーショナルな気色をロックに昇華した作品である。

特に1~3曲目がその特徴を孕んだものになっている。

バウンズ感による高揚感が突き抜けるロック「Hello」の《思わず忘れたよ 無傷で生きるバリアを張ってたってことを/そんなものもう必要ないと》という歌詞。今まで立ちはだかっていた壁は取っ払われたということだと思う。

四つ打ちビート・ロック「パラボラ」では、《定規で書いたような将来の雛形を知らぬ強さに/なぜだか僕らは不可思議に救われたりする》という歌詞で、設計図を否定するような初期衝動の正しさを提示する。

ミドル・テンポのロック「Laughter」の《前例のない大雨に 傘も意味を為さない それでも胸は熱くなって》という歌詞、ある意味では前例を壊し、そして、その瞬間は傘も必要ないという。

これらの歌詞を総合的に考えると、今までの正しさを否定し、かつ初期衝動を見つめなおして、新たな理想郷へのベクトル変化が伝わってくる。

その変化のために歌詞がエモーショナルな吐露にならざるを得なかった。

(藤原聡の高音ボイスがよりエモさを助長しているのは言わずもがな。)

それを可能にするのが、今回のロック・フォーマットだった。エモーショナルな気持ちを表現した事が、ロックの着火点になったのだ。まさしく、リズム・アンド・ブルースなわけだから、ブルースな感情を表現した結果が、今作のロックな地点に至ったのだろう。

最後の「夏模様の猫」はピアノ・ソロ楽曲。これは、さながら飛び立った鳥を恨めしそうにみる猫といった趣か。新たなベクトルに飛び立った鳥もハロー。センチメンタルな猫も海に向けて旅立つ。

すべての人たちに新たな旅立ちを彷彿させる作品となった。