DISC REVIEW

BUMP OF CHICKEN

「アカシア」

 

―新たな設計図の更新―

 

 『TOUR 2017-2018 PATHFINDER』を観た時もその予兆はあったが、『aurora ark』のセットリストを見て、更にその思いを強めた。近年のバンプの大きなテーマが『ユグドラシル』の具現化であるという事に。その一つが「ロストマン」のアンサーソングとして歌われた「Spica」だった。そう考えると藤原基央が作りだした『ユグドラシル』というパラレルワールドが、どれだけ重要なものであったかということが今更ながらにひしひしと伝わってくる。その流れを汲んだ曲が「アカシア」だと言える。

 イントロでキラキラとベルのような音が鳴り、それにギターのリフレインが続く。そして藤原基央が歌い出すと同時に、升秀夫ハイハット増川弘明リードギターが重なり、4小節後に直井由文のベースラインが響く。所謂ライブ感と何かの芽吹きを感じさせる様に始まり、BPM140前後で曲は進む。サビでは四つ打ちビートでリズムを刻み、藤原基央が《魂がここだよって叫ぶ》と、ファルセット混じりの声で歌う。

 また『ユグドラシル』との関連になるが、楽曲のスピード感でいうならば、「オンリーロンリーグローリー」に近しいと言えるだろうか。そういった点を含め、この曲からも過去との共通点が見え隠れしている。

 一番わかりやすいのは、タイトルの「アカシア」は「ハルジオン」に続く花シリーズの更新になるし、二人で何かを探しに行くという情景は「天体観測」の景色を更新する。また、《足跡》というキーワードは「宇宙飛行士への手紙」と共鳴する。極めつけは「天体観測」での言わずと知れた《オー・イイェー・アハーン》という歌唱がもう一度登場したことだろう。

 今までのすべての事柄が繋がり、新たに物語を更新していく。まるでもう一度、地図を描くように。そう、正に《破り損なった/手造りの地図》を刷新していくためのワン・ピースが「アカシア」であろう。

 季節が変わり、時代が変わっても、やはり変わらないものもある。この曲でそう感じた歌詞がある。それは《転んだら手を貸してもらうよりも/優しい言葉選んでもらうよりも/隣で(隣で)信じて欲しいんだ/どこまでも一緒にいけると》という部分。めちゃくちゃ前の『ROCKIN’ON JAPAN』の藤原基央のインタビューにて。昔、道徳の授業で、道端で転んでいた人がいたらあなたはどうしますか?いう設問があり、他のみんなは手を貸しますという一般的な回答をしたが、彼はすぐに助けるのはその人が持っている本来の力を削ぐことになるので賛成できないという回答をしたところ、先生と意見が対立してしまった、という逸話があったと記憶している。その当時私は胸が熱くなって、藤原基央すげーなーとバカみたいに思っていたことを思い出した。2020年、この歌詞から変わらない核の部分を垣間見ることができ、同じように胸が熱くなっている。

 ここからは余談になるが一番典型的な読み解きをしよう。「ハルジオン」の花言葉は“追想の愛”追想とは過去のことを思い起こすこと。 「アカシア」の花言葉は“秘密の恋”“友情”などがある。このタイミングでこのタイトルの曲を出す意味深さを、面白可笑しく思いながらも、過去を更新し、物語を紡いでいける友情をもったバンプは最高のバンドだろう。