DISC REVIEW

くるり

 

『I  Love  You』

 

-ラブソングはくるりんぱと-

 

日本で、日本人にしか歌えない世界水準のポップソング=ラブソングを歌うのがくるりだ。

本曲は「2034」や「Liberty&Gravity」の傾向を引き継ぎながら、『songline』でのくるり節復活を経て、未発表音源集『thaw』で過去曲の再定義がなされた結果、彼らの中で今までで一番プログレで、サンプリングミュージック的思想を含んだ楽曲となった。

『thaw』で岸田繁が既発曲と邂逅し、生まれたであろう今回の見逃せない点は、《ほら なんの足しにもなりゃせんよ/ほなせんど 食い散らかせよ》という歌詞が、《子供だましで/ええじゃないか/死ぬまで続く暇つぶし/何も肥やしにせんまま/おいらに続けよ》「石、転がっといたらええやん」の歌詞にリンクしている部分。2010年と2021年の岸田繁が繋がっている。

件のコロナ過の中、数年前に過労死で亡くなった某有名広告代理店の女性が2020年をもし体験していたらという思いが頭をよぎる。無意味なifだとは承知している。ただもっとおそれているのは、感染が終息すれば、また元の世界に戻ろうとする事。彼女の一生懸命は意味があったのか無かったのか、その答えが出ないまま変わらない朝を繰り返す。

《杯になる/灰になれ/I LOVE YOU》絶対的だったものが崩壊し、新たな矛盾が私たちに突き付けられた中でも、くるりは変わらずラブソング歌う。杯になろうが、灰になろうが、実は何の足しにもならない事を知っているから、どちらにも愛していると言う。絶望に振れようが希望に振れようが、最後にはラブソングという真ん中に戻ってくる。何故ならそれがポップソングの歌い手としての宿命だから。