DISC REVIEW

daisansei

『ぬかるみ山』

 

-日本昔話「ぬかるみ山」でdaisanseiは全ての養分をその土に宿す-

 

daisanseiにとって「ぬかるみ山」は大正解である。daisanseiを表すキーワードを挙げるなら、ネオアコ、ロックンロール・リバイバルなど。おそらくアーバンな香りのするハイカラ・ポップ音楽への恋慕があったと思う。そんな彼等は本曲でささやかなシフトチェンジをする。題して、北のくるりdaisansei東京で遂にふるさとを歌う、といった趣。

雷と雨の音のSEからネオアコな楽曲が進み、間奏。呟きとストリングス、鍵盤が交差し、反復。クライマックスへ至る。ポイントは教訓と5分52秒。得てして日本のバンドが長々と教訓を歌うと野暮ったくなる。しかし、それを昔話っぽく民謡的にアレンジしたのが正解だった。フロントマン安宅伸明は、これを歌うため、はるばる秋田から出てきたのかもしれない。

ヤシャブシという木を知った。荒れた地に出現し、その土壌を整える役目を終えると、ひっそりと姿を消す。その儚さたるや。

ヤシャブシの様にいずれは果てる運命なのか。それでも東京で何かを刻むまでは秋田に帰れない想いと、ふるさとでの落としものを抱えた心が交差する瞬間を《大丈夫 戻るから待ってて》という歌詞が表す。これは、安宅自身に向けたマニフェストでもある。