LIVE REPORT

CRYAMY

-red album-RELEASE TOUR[建国物語]

名古屋CLUB UPSET

2021.07.04

 

アンコールでの"世界"。6分49秒の真ん中でカワノは時間が足りなくなったから喋るわって、間奏中に語り始めた。しっかり聞きたいからちゃんとMCとして話してくれと思ったが、時間が押したのには理由があるから仕方ない。そもそもこの内容自体、その理由から生じたカワノの言葉かもしれないのだから。

CRYAMYにおいて、私の中でより確信的になった事がある。それは、カワノの中で言葉の過流速が起こっていて、もしその思いを伝えるとすれば、フォーク的手法しかないのだと思う。しかし、それは2021年的ではない。だからもう、伝わらない、という無理さをフォーク的思想に落とし込み、そのまま速度と圧力を上げた結果、エモのテンションにならざるを得なかった。見ただけでわかるエモの容器に入りきらない大量のフォーク的思想をおもいっきり詰め込んだ結果、名実共にパンクしそうな瞬間に生まれた、エモとフォークの邂逅こそが彼らのロックの姿だ。

そのエモとフォークの邂逅の象徴的な曲が"世界"、中盤に演奏された"月面飛行"である。この曲も7分19秒もある長尺曲。そう、カワノのフォーク的思想を詰め込もうとすると、これ位の時間が必要だろう。彼らは『#3』でひとつの到達点に至っていたはず。だから結果的に今回のアルバムに入れなかったのも合点がいく。この2曲のようなものを詰め込んだフルアルバムがあったら、おそろしいと思う。そして本人たちの並々ならぬ精神力も不可欠となるだろう。本公演を観て、彼らが何故赤盤のようなアルバム内容を選択したのか、その答えの一端を垣間見る事が出来た気になった。つまりはCRYAMYがバンドの特色を殺さず、且つ存続を選んだ結果が赤盤だったのだ。

ライブ前にカワノが3人になにやら耳打ち。このバンドってこういう事していたっけ、と思っていたら転換が終わり、SEのJOY DIVISION「Disorder」が鳴り、ライブが始まった。"テリトリアル"と"ディスタンス"を続けざまに演奏。グランジやエモを展開し、そのテンポのまま、"変身"へ流れ、一転余韻を感じさせつつ"戦争"が始まり、サビをフルスロットルで振り切る。のっけからこういう感じ、でも終盤にこの展開が一番生えたりもする。

この後、再びカワノが3人に耳打ち。そして最初のMCで言及したのが、ゲストである時速36kmの仲川慎之介が、MCで話した内容へのレスポンスだった。

―――CRYAMYに対して愛憎交々の思いを持っていると赤裸々に告白した仲川慎之介。告知とか伝えたい事は話したと、髪をかきあげながら鬼気迫る発言をした。出会いはバンドとしてやっていけるかもと思いだした頃。下北沢のバンドシーンで、いきなり頭角をあらわしたCRYAMYに対して、マジかよ凄えな、という思いから憎しみを抱いていたと。でも今は同じくらい愛も感じている。一緒にシーンを盛り上げて、でかいバンドになっていこうという思いを告げた。―――

これに対して、あんまり対バン相手については話して来なかったけどと、カワノは語り始めた。ああいう話は茶の席でしろって、こういうの褒め合いになるから嫌なんだよ、とかグチりながら。でも、相手がちゃんとMCで言ってくれたから、俺もちゃんと返しますといい、仲川慎之介の発言、全て相手に返すわと言う。時速36kmが常に一歩先を行ってた、全部先にやっていた、俺たちはその後を追ってきたんだよと。

そして、セトリ考えてきたけど変えるわと、"やってらんねー"が演奏された。3人への耳打ちはこの事だったんだろう。対バン相手からすごいすごい言われるけど、ほんとは俺ら、こんな感じでやってんだよー、という照れ隠しの意味もあったのかも。

このあと、"月面飛行"がゆるやかに後半戦の始まりを告げる。フジタレイはギタープレイ中、その音の渦に完全陶酔する。悪い事では無く、ギターリストたるものこうで無くてはいけないし、こういうところも彼がCRYAMYというバンドに居る必然性になっている。

長尺曲に続き、"Pink"のメタルの激しさの急転換、もう初期曲とも言え、その盛り上がりは特筆点だった。この曲でのタカハシコウキは寡黙では無く、クレジットに記載通りchorusを的確に行い、サビの激しさを助長していた姿が印象的だった。

もちろんオオモリユウトは、どの曲も愚直にシリアスにリズムを演出。その変わらなさがCRYAMYの心地よさにつながっていると思う。

ここでカワノの口から、CRYAMYという名前の所以に触れるような事が語られる。前から言葉で伝えたかったような雰囲気で、どれだけ話しても完全には伝わらないし、例えば友達のように語り合っても分かり合えない事はあると言い澱みながら発言したのは、繊細な奴は薄っぺらいんだという事。つまり、繊細な事を歌っている自分は薄っぺらいと言うように。みんな歌っている自分をすごいと言うけど、ここに来ているみんなの方がすごいと思う。でも自分がその繊細さを無くしたら、今まで積み重ねたモノが無駄になる。強い人に同じような歌で伝えられても、受け入れられないでしょ。だから俺はこれからも繊細な自分のままでいく、それがCRYAMYだから。そして夢ってのは叶わないものだから、その夢を変えてでも、叶えるんだというようなメッセージを語り、その感情をオーディエンスと共有しつつ"HAVEN"がしっとりと、でも熱量高く歌われた。

ライブのクライマックスへ。"鼻で笑うぜ" "完璧な国" と、赤盤の中で物語性と情熱性が高い楽曲が演奏され、本編ラストはライブの定番"ten"で赤盤としては始まりの曲に戻り、頂点を迎えた。

アンコールは拍手もそこそこに、そうそうに出戻り。最後の、間奏中語り付き"世界"が披露された。

そう、全ては時速36kmからの愛憎発言が原因だった。セトリを変え、時間を押し、こういうイレギュラーな"世界"になった。でも、それもライブの醍醐味だし、そういう感覚的な行動が出来るのがロックバンドだ。そういった状況での発言は時にトレジャーになる。ここで語られたのは、何かを残す、たとえ誰かを騙してもいいんだという、カワノの言葉。もちろん、誰かを騙せと言ってるわけではない。

何かを変えるために変わる事の意味を謳うのが赤盤であるがごとく。確かに、強さと繊細さの折衷で揺れるCRYAMYの現在地が此処にある。スペルミスで生まれたバンド名。彼らはCRY(繊細さ)とAMY(強さ)のどちらを選ぶのか。どちらを選べば成功するのか、カワノにはわかっているのかも知れない。でも、繊細さを無くす事は逆にバンドとしての死を意味する事も理解しているのだろう。その中で答えを模索した後の姿を、私たちも待ち望んでいる。でも、その景色を想像する事は出来る。蒼き昇天と青春の慟哭の向こうに見える音楽は確かにクリーミーな音色のはずなのだ。