DISC REVIEW

Kanye West  

『Donda』

 

カニエ・ウェストはDondaによって復活を歌う。そこに隠されたメッセージによって世界はもう一度生まれ変われるのか-

 

カニエのキャリアはラッパーとして始まったが、母の死で一度終わる。その当時、リズムマシンのローランド・TR-808によるエレクトロとカニエの歌による旋律が生まれた。しかし、ラッパー、カニエのストーリーはずっと止まったままだったのかもしれない。今回ついにそれが動き出した。もう一度再開させたキーワードは母の名前であるDondaだった。

この作品はカニエの母の名が曲名になり、“Hurricane”にある神との対話や、“Jonah”でのJay-Zの喪失などのパーソナルな視点のストーリーが歌詞に描かれている。音楽的には、Dondaという言葉をただ繰り返す、ポップ・ミュージックの原点、アフリカのリズムを彷彿させるものをゼロ地点に、ロックが開幕を告げ、トラップが本作の全体像を作り出す。終盤はカニエの初期を思わす90S~00Sのヒップホップ、R&B、ソウルを辿り、最後は一貫して背景に存在していたゴスペルで終幕する。言うなれば、カニエ自身の半径5m以内のリアリティを表した歌詞が、結果的に実世界で起こっている状況とリンクし、音楽が世界の始まりから終わりを描いた作品と捉えることが出来る。

母の名前をつけたDondaという音楽はdo・n・daと分けたときに、ダ・ン・ダと読むと母音は、あ・ん・あ、になる。つまりは阿吽のように始まりから終わり、また新たにストーリーを始めたい、という事を追い求めたタイトルなのだろう。

ウロボロスのようにまたすべては振り出しに戻る。最後の曲“No Child Left Behind”は、落ちこぼれの子供などいないという意味。つまりはカニエ自身が、落ちこぼれではない事を確かめるために原点に戻る必要があったのだ。ゴスペルが鳴り響く様な教会でカニエは、生まれた瞬間からもう一度始める必要を示唆する。それは同時に今世界が求めている、そのものに繋がる。2021年に生み落とされるべき作品と言っても過言ではない。