DISC REVIEW

mihoro* 

『愛して欲しいの』

 

― 愛を乞う人がいる限りロックは死なない―

 

mihoro* に漂う敗北感の正体を追っていくと、それが常にロックにある敗北感と同質のものであると気がつく。完全に何かに負けた訳ではないのに感じられる憂いによって、彼女とロックが出会う事は時間の問題だった。

ギター片手にSSWを名乗る彼女が、出会い頭にロックとぶつかった如く瞬間が『love is alive』だった。その時、失った記憶の中にデビュー前までの肩書きがあったはずだが、目を覚ましたときには新しい武器を手に入れていた。それは既存のスタイルとの明確な差別化を表すかの様に、ハイプ感の漂うハイパーな姿。その新たなmihoro* の第一声が本曲だ。

桃太郎が勝ちで鬼が負けという簡単な構図で成り立っていた時代は崩壊した。鬼は居なくなっても世界は廃頽した。桃太郎がいたとしても守るべきもの自体が廃絶した。

勝敗の意義を無くしたハイプな世界でmihoro*は、それでも愛との戦いを歌う。ふと頭をよぎったのは《必ず最後に愛は勝つ》という、かの有名な歌詞。おそらく彼女は無意識にそれを令和において再現してしまった。実はそれを可能にしたのがロック。嘘くさい佇まいを装いながらも、敗北を歌える強いシンガーにロックは宿るのである。