DISC REVIEW

當山みれい

『嵐の前の静けさに』

ー涙の数だけ強くなれるよ〜2021〜ー


J-POPに最適化する事は當山みれいにとっては脱スーパーガールを意味する。商業的に成功するとか、彼女の意思だったとか、この際置いておこう。ただ音楽家としては正しい選択。結果的にそれがアーバンなMIREIからルーラルなMIREIへの道筋となった。

本曲のコーラス部分の歌詞《夕焼け小焼け》《おててを繋いで》はあきらかにルーラルな感覚を想起させるもの。反対にブリッジ1の《胸の苦しみだって/有難くさらっと/着飾って/着こなして》、ブリッジ2の《どいつもこいつも君に見惚れてる》はアーバンな感覚を露わにしていると捉えられる。実はmabanua のチルアウトなアレンジが、このふたつの感覚をつなげるブリッジの役目を果たしたのかもしれない。アーバンなソウルを作るyonawo/荒谷翔大に内在するルーラルなソウルとの摩擦。アーバンなダンスミュージックから離れつつある當山みれい自身に内在するルーラルなソウルへの戸惑い。そのふたつの共振によって新たな自分を知ってしまった事をこの曲は示唆している。

ルーラルを救うための橋が人の流入より流出を増やした事を私たちは理解しないといけない。お題目の地域創生によって、失われた理想的な美しき国を取り戻す事は出来ないだろう。ただ私たちが田舎の静けさを愛で続ける事は確かなのだ。

アーバンな當山みれいは変わらぬままでいい。特筆すべきは、ルーラルな視点を失うことの畏怖を手に入れた事だろう。アーバンな佇まいで、今は亡きルーラルな桃源郷を歌ったラブソングは、喪失のおそれを知った後だからこそ生まれたのだ。