DISC REVIEW

鈴木瑛美子

『5 senses』

ー第六感を至上命令とする音楽でありながらも、それを捨て五感だけで感じる事に至った、その未来とは?ー


歌唱力に定評がある女子高生から始まり、avexと契約。そして、実力派シンガーへと向かう道を進む鈴木瑛美子。その王道の結末を知る術は未だ無い。ただ遠目に眺めてみると、彼女の歌唱とブルージーさが近接点となっている地点を見つける事は出来る。

まずは彼女が歌う事の意味を探すために、その道を遡ってみると、当然の如くブラックミュージックという始まりから辿る事になった。スウィング、ゴスペル、ジャズ。そこからロック、現代的なR&Bに進み。ワルツ、打ち込み、ラテン、4つ打ちに枝葉を広げ、最後はソウルに着地する。ポップミュージックの多彩さを理想的な形で詰め込んだ作品と言えるだろう。

五感で感じるだけでよかった時代は皮肉にもavexらしいままでよかった時代とリンクする。つまり今ほど第六感にすがりつく必要のある世界は無かったのでは無いか。だがしかし、反対に第六感を感じられればその分疲弊していく事も明らか。じゃあどうしたらいいかという疑問を考える時間なんて無いと言い訳しながらも、SNSで何かしらを消費している事を無視し続ける人を否定するつもりはもちろん無い。そう、つまり本作タイトルは第六感に訴える使命を負った音楽でありながらだ、逆説的に五感の重要性にすがりつくべき意味を問いたかった作品と言える。

五感にだけフォーカスしたところで、「tell me」の歌詞《違いがわかんないよ/ただ寂しいんだ/どうしてだろうね/付き合ってるのは私のはずなのに》が、個人の自由性によって個人が切り離された結果、生まれ得た孤独から出てくるモノであり、これが鈴木瑛美子にあるブルージーさの根源だと気付く。と同時に彼女の世代からしか出てこない視点でもあると言えるかもしれない。私たちは第六感を失くしたから、味蕾で感じられる未来しか信じられなくなった?またはその反対?逆説的だが、第六感の喪失が鈴木瑛美子の存在意義を明確化したのだ。