DISC REVIEW

ART-SCHOOL
『Just Kids .ep』


ー柔らかい君の音とは木下理樹自身の声だった。それは新たなループの始まりになるだろかー


唯一欠落したものは何だろうか。今作に置いて、アートスクールの過去と現在とのリンク点を抽出すると「Just Kids」には初期のパンクさと後期のBPMの傾向があり、「柔らかい君の音」には初期のメロディアスさと後期のポップなリズムが混じり合っている。はたと気がつく、木下理樹の喪失感自体が喪失していることに。

これまでのアートを振り返ると、初期のハードロックやメタル、USインディーロックをギターロックに昇華したもの。第2期のテクノ、ダンスミュージックやファンクな要素を取り入れた1番コンテンポラリーだった時期。現体制になって、改めて木下理樹の原点に帰るようにグランジロックの体現。その後バンドとしての継続を占うようにメロコアエモコアのポップさを纏う方向にシフト。ようやく今作で、過去と現在を繋げて循環したのだと思う。つまり、アートは変わり続けてきたけども、またもとのアートに戻ってきた、音楽的には。

無次元化すると、ある係数を入れれば自ずとアートになる。アートは自身を無次元化し、存続してきた。その係数とは喪失、ずっとそう思っていた私。何故なら「In Colors」の無次元化の数式は、明らかな間違いだった、もちろん駄作という意味では無く。公式の係数が過剰だったのだ。おそらく係数に入れたポップさの程度が甚だしく、継続的使用は不可。その代償により木下理樹は休養せざるを得なかったのかもしれない。

再びアートは二周目に向かうが、そこに喪失というキーワードは欠落し、ポップさの多用も危険ときている。では、これからのアートはどこへ向かうだろう。少なくとも本作が生まれたことで、バンドは新たなループを描き始めている。そして、その円環の終焉を防いだのは紛れもなく木下理樹の歌唱。唯一なんの喪失も無い、そのまんまの彼の歌声が、このバンドの存在意義でもあるのだ。