DISC REVIEW

カワノ
『冷たい哺乳瓶』


ー正常と異常の狭間にあるカワノ時間の正体ー


この作品はCRYAMYとカワノの間に存在している。バンドが異常を表現し、彼の中には正常な視点があるとした場合、その間の空間に位置するのがソロ時間なのだ。つまり、その狭間にある音楽を表現するために作った、とも言える。今作に「道化の歌」という曲があるが、本人名義である事で、より意識的に道化なる視点を描けたのだろう。

また本作によってバンドの音楽的な骨格が明確化されたとも言える。フォーク、ポストパンク、ロック、パンク、ネオアコ、60sポップ。ザラついたテクスチャが感じられる楽曲が並び、最終的にすべて削ぎ落とした「白旗」。ソロの特色を感じるより、むしろ、良くも悪くも結果的にミニマルなバンド感が表出したと言える。

哺乳瓶の適温は36〜40℃らしい。タイトルの冷たいという表現から、冷たい哺乳瓶で育った人=異常というロジックを作りたかったのかもしれない。カワノはというと、抜群のバランス感覚で異常と正常を渡り歩く。《わけアリの人らを慰めるためだけに産み落とされた歌が砂の粒ほどある》「僕たちは失敗した」と《止まったらちゃんと殺してね》「道化の歌」の歌詞から、カワノが如何に自己批評性を持ったアーティストであるかが分かるのではないか。

正常と異常の狭間にあるカワノがここで歌うモノゴトは、実は色んなところで同時多発的に存在している。正義と悪、性差、希望と絶望、成功と失敗etc.ーーーその間にある圧倒的なグレーゾーン。つまりどちらかを選ぶ事も出来ず、選んだところで、正解不正解を受け取れるはずも無い。そんな不条理な世界で、カワノは二項対立を真っ向から否定し、完全無欠な正解を手に入れる。その是非など知らん…。それが此処に存在するカワノ時間の正体だ。