DISC REVIEW

YUSUKE CHIBA -SNAKE ON THE BEACH-
『SINGS』


ー最適化の中心でチバユウスケが叫ぶ。そのスタイルから見えてくるのは、決して死なないためのラブソングを歌う事だったー


チバが歌えばすべてチバになる事をチバニアンという。もちろん嘘だが、
「BEER & CIGARETTES 」でチバが飲み屋で語り合う会話をバックにしたインストナンバーで、地表深くについて発言していたのは単なる偶然だろうか。何れにしても、彼の音楽の無次元化係数が同じであればすべての答えは正しくなる。しかし、チバで無ければ、すべては成り立たないのは言うまでもない。

そんな、正解を導き出してきた係数に少なからず揺らぎが生じてきている。何故だ。原因はそう、最適化された世界においてロックとは?という議論はこれから必ず生まれくる。その議題において、チバのロックの係数が不正解を導き出す可能性を示唆し始めた。そんな予兆を察知するかのように本作は、冷たき格好良さを表す「ムーンライト」「星粒」「ラブレター」「M42」と、熱き格好悪さを表す「星の少年」「ベイビーアイラブユー 」とが、明確な対比構造を成して『SINGS』を形作った、まるで何かに抗うかのように。

ロックにおいてラブソングとは常に死と隣合わせなのだ。それは今作の歌詞を捉えればすぐにわかる。常に相反するものが共存し合う場所にロックとは生まれてきて、かっこよさとかっこわるさはいつも同居していることが必然なのだ。また、ダサさの極致に本音とは存在する。

先の話と矛盾するがTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとはかっこよさの極致だった。かっこわるさがひとつも存在しない、そして、チバとあのメンバーでしか成り立たないものでもあった。もちろんそこにある係数もたったひとつで、変える事は許されないもの…そう、だから無くなってしまった、のだ。ーーーこの作品でチバは、チバの音楽たらしめている定数を改竄した。この最適化された世界で、無次元化の定数を変えてまで伝えたい事があった。それは何か。音楽で死に向き合ってきた、チバユウスケだから歌える、決して死なないためのラブソングを歌う事に他ならないだろう。