DISC REVIEW

笹川真生
『うろんなひと』


ーうろんなひと笹川真生は世の中の失踪者が疾走し続ける意味を唄うー


宅録スタジオで作った正常なロックを奏でていた笹川真生。そのままでいれば、ボカロから出てきたギターロックの1人に数えられていただろう。しかし、その界隈には留まらないのが必然の理のように彼はそこを脱していく。

つまりは宅録スタジオを失踪後の如く。オルタナティヴとして、ジャズやソウル、ブルースを打ち込みによってJ-POP化させていくセンスはやはり宅録出身の編集力だろう。そのJ-POP的視点が彼の音楽のメロディアスな奔流と合致している。

2017年、台北の繁華街には普通に障害者が歩いていた。医療の発達した日本ではほぼ見られなくなった景色である。ただ、どれだけ医療が発達しても似非障害者は消えないだろう。そういう人たちの是非を唱えたい訳ではない。障害の宣言の使い方を私たちはもう一度考え直す必要があるのでは。

宅録スタジオ破壊後に思えてくるのだが…彼の歌声には微かな欲望と喪失が渦巻く。其処で、笹川真生は自分をうろんなひと、と宣言したのだろうか?ーーーもしそうだとしたら、その真意は《病気だったら好きなの?/とろけそうな再発見》という歌詞に込められていそう。世の中から失踪した彼はさらに疾走を続けていく。いったい何処で?不条理にも彼は自身の音楽によって、避け続けてきたグラマラスな地点に辿り着いてしまった。それが浄化に繋がる事を本能では察知していたかのように。