GRAPEVINE
Almost There Tour
extra show
in なんばHatch 2024.3.24
LIVE REPORT
いつものバインが戻ってきた。
ルーズな白シャツにピンクのワイドレッグパンツというコーデで決めた田中和将がいつもの笑顔で登場。カジュアルなネイビーカラーの西川弘剛と薄いグレーのシンプルコーデの亀井亨も定位置に、そして全身黒コーデの金戸覚、限りなく黒に近いグレーコーデの高野勲もスタンバイ。田中の「じゃあ〜はじめましょかっ」という掛け声とともに"雀の子"から始まった。
この曲は、ライブ中盤にきた方がおどろおどろしさが伝わると思っているけど、その反面これは田中少年の回想と推察もできる。「かすうどんくわしたろか」と言われているのは、田中少年だという妄想。だから、やはりライブストーリーの1ページ目である必然性は否定出来ないわけだ。
アフリカのリズム的なアレンジでスタートの"Neo Burlesque"が続き、"Ub(You bet on it)"からMCを挟み、"EVIL EYE"。この2曲が続いた事から推察すると《世界中が敵》と、悪というキーワードからGRAPEVINEがヒール役であるというストーリー展開になると読み解いていく。
そうこうするうちに"マダカレークッテナイデショー"へ、金戸覚のファンキーなベースプレイが展開され、"それは永遠"、"TOKAKU"が続き、Almost There物語の序盤、不確かな愛を見つけた瑞々しい青春期のクールが過ぎていく。
亀井亨の重厚圧で印象的なドラミングが鳴り、ライブの中盤を告げる"新しい果実"だ。時間を重ねる毎に、この曲が分水嶺の役目を果たしている事を、切実に感じる。世界規模で見るならコロナ前後、バインの半径5m以内の変化。そして、戦争。すべて、それ以前には戻れない事を切なくも噛み締めていることにふと気がつく。
〜The Dark Side of the Moon〜
暗黒を走り出す場面のように"停電の夜"、"アマテラス"、"Ophelia"、田中アドリブのソウル歌唱から"The Long Bright Dark"までがAlmost There物語のドス黒い闇を疾走し抜けるまでのクールだった。
後半戦は"Loss(Angels)"から。これが一つの物語の結論になっていたと思う。
"アナザーワールド"を見ようとしたバインがその逆説を唱えたことこそがロックとしてのスタンダードなアンサーになりえている。
そこからMCを挟み、昨今のJ-POPへのバインなりのニヒルな回答集とでも言おうか。バインのアニソン批評"Goodbye,Annie"、バイン的シティーポップな回答"実はもう熟れ"、そして物語は佳境へ一気にギアを上げるように"Glare"、バイン的似非(マジ)ブルース"Scare"、方向転換し田中の「よっしゃ〜ほな行くでー」という掛け声から"超える"でバインの定番のピーク地点に到達。そこからバインのロックとはこれや的な"Ready to get started"。西川弘剛が舞台ツラまで出てのギターソロ等も相まって会場の盛り上がりをさらに越えさせた後、〆もまさにアフリカのリズムから始まる"SEX"で、しっぽりとバイン的昨今のソウルへの解釈を提示し、Almost There物語の本編は、新たなる愛を"あともう少し"求めていこうとし、幕を閉じた。
アンコールは"God only knows"から"shame"、ラストは"Arma"だった。
最初にいつものバインが戻ってきたと言ったが、安易にヒットパレードなセトリにしないヒールなバインが復活した。しかし、そこには見た人の数だけ感じられるストーリーがライブの曲順で描かれていたと思う。
"Almost There Tour"のextra showとはアルバムタイトルになぞらえたショーだった。余白の余分から見えてきたものとは?コロナ前後で当たり前だった事柄が確かに変わった。戦争が今確かに起こっているというリアルはもうそれまでには戻れない。田中和将の復活前後でバインの音楽の価値が変わることは1ミリ単位も無い。それは火を見るより明らかなのだが、復活劇があろうがなかろうが、いずれ命題に上がってきただろうバインの延命というキーワード。バンドとは生き物。早いか遅いかの違いはあるが終わりはいずれ来る。あともう少し、そんな事を察知させるように『Almost there 』とこのツアーが存在していたのだと思う。
バインの次の物語はどこに?
《どうして誰もが急ぎ足でその次を欲しがるんだろう》"指先"の歌詞とは裏腹に、バインは常に次を描き続けてきた。これほど長い間コンスタントに同じクオリティーの作品を生み出し続けているロックバンドって日本にはGRAPEVINEしかいないと言っていい。
もう少し想像してみると、バインの次の物語を少し示唆したのはアンコールラストの"Arma"の意味合いについて《武器は要らない》という歌詞。表側の意味は戦争についての揶揄。しかしAlmost There物語上での意味、田中和将はすでに武器を持っていたということ。西川弘剛のギター、亀井亨のドラム、金戸覚のベース、高野勲のキーボード等からの無限音源。これらこそArmaだったと田中は察知した、兎角そういうことにしておこう。かくて円環は閉じる。
余談ですが…
"阿"吽、円環が出たところで、ショーの本編がアフリカのリズムで始まりと終わりを繋ぐ事で
ポップミュージックの始まりと今を円環するというバインなりのイメージだったのでは?そして世界の音楽シーンも2023年、世界の多様性によって阿吽の様に一度円環が閉じたのではないかと、そして2024年新たに、阿…が始まる
《六時にオープンオープン
七時スタートでっせ》
最後にもっと想像してみてみよう。Almost There物語の最初のシーン、少年が変な大人にかすうどん食わしたろかと言われた後、七時にスタートするライブに行ったらしい、そこで演奏していたのがGRAPEVINEの Armaだったとさ。Almost There物語の円環は閉じた。またすべては振り出しに戻るが、世界のストーリーは前とは違っていて欲しい、そう願わずにはいられない。