LIVE REPORT

CRYAMY
特別単独公演
『CRYAMYとわたし』
東京日比谷野外大音楽堂
2024.6.16
LIVE REPORT

その日、28℃、晴れ。
梅雨を免れたのは良かったが、開演時間の17時前になっても太陽がギラついている。日比谷公園内の木々が茂る中、SEのJoy Division『Disorder』が途切れ、スモークも焚かれつつあるステージ上に4人の登場した。

カワノがおもむろにサビを歌い始め、4人の音が交わり「WASTAR」から始まった。
《君のために生きる》という歌詞とエモパンク、CRYAMYとしては今と音楽と近接する瞬間と言える曲からスタート。
間をおかず、ライブ序盤特有の揺らぎのある音像で「Sonic Pop」へ、グランジの流れで「普通」、メロコアな「crybaby」の現代感で締め。

カワノは最初のMCで、カッコいい事言おうとしたけど、この満員の会場を見てもうどうでも良くなったと告白する。
一呼吸おき、「まほろば」から開始、これもメロコアなCRYAMYの現在の音楽との近接点という意味での最新型だ。
俺たちが実現する、みたいなカワノの叫びがあり「光倶楽部」へ。最新作からカワノのデスなボイスが投入された、グランジな音像。そのハードな流れのまま、「変身」から「注射じゃ治せない」がカワノのデスボイス込みで進んでいく。カワノのデスボイスって、やっぱり現実社会との摩擦から生じたものなのか。ミステリアスなミドルテンポのデスメタルな「豚」が更にヘヴィに響いていく。デスボイスは続きながらも「E.B.T.R」のメロディで少し雰囲気は中和され、ライトもピンクへ「Pink」がギターメロの美しさとヘヴィな音像で会場を染めた。
一呼吸おき「HAVEN」。《どこかに行きたいのに》の歌詞で本曲がコロナ禍に投下された頃を思い出させる。

カワノ2回目のMC、5年前にいた友達、もう今はどこにいるかわからないイイ奴がいたと話し「物臭」へ。歌詞に感化されてると思うが、バンド史上1番ポップな曲だと言えると思う。
続く「Delay」もフジタレイの美しいギターメロとカワノの歌を伴った叫びで、歌としての良さを改めて提示。さらに「ALISA」の《君が特別だったんだ》が悲しさを助長させる。

これまで沢山きれいごとを吐いてきてそれを聞いてくれてありがとう。それはきれいな事が好きだからだったと、でも自分はそんなにきれいな人間でもないとカワノが語る。みんなのおかげで人間なれた気がしますという言葉から「GOOD LUCK HUMAN」へ。
長尺な楽曲を終え、カワノ弾き語りのサビの歌唱から、誰の歌ではなくあなたの歌という様なことを叫び「ディスタンス」が、タカハシコウキのヘヴィなベースをガイドに音圧の瞬間最大風速を作り4人はステージから捌ける。

すぐにカワノが1人で戻ってきた。
やる予定は無かったんですけど、前置きしてソロ作から「道化の歌」を爪引き始める。
《止まったらちゃんところしてね》今かいな?
と思ったりした。
演奏後、メンバー3人への感謝、スタッフへ詫びなど、昔を回想しながら語った。
最後は辛気臭いから後はバンドでやりますと言い放ち、メンバーが戻ってくる。
いつの間にかオオモリユウトは白のタンクトップになって、フジタレイは半袖になって、タカハシコウキは、変わらずチェック柄シャツだったと思う。
再び演奏開始。イントロを反復し「テリトリアル」へ。曲の終盤で、おめぇらの歌なんだよぉ!と叫ぶ。この曲は、歌詞の金髪の女の子に向けてだったと以前カワノは発言していた。しかしここでは、この会場のヤツに捧げる事を証明する様な言葉だった。そんな重さを吹き飛ばす様に「鼻で笑うぜ」《でも君が生きていてよかったって思うよ》と当たり前だけどと、かっ飛ばす。
《何かひとつ拒絶出来たのは》と、カワノが歌い出し、ギターのディストーション、メロ。バスドラのリズムの反復とそれに連なるベース。序章を長引かせ瞬時に終わる「戦争」へ。さらに同じ相似形にある楽曲「ten」もその流れを汲み瞬間的に到達点に達し、結。
徐々にあたりは夕暮れが迫ってきた。
一呼吸、カワノが息を継ぎ。「ウソでも「ウン」って言いなよ」へ。続く赤盤の名曲「完璧な国」と、しっとりとした楽曲と共に夜に向かっていく。
カワノが再びMCで感謝の意を述べる。そして少しでもいいから自分のセンスを信じてほしいと言葉を紡いでいく。
「天国」に。最新作の中でリアルさ一番の名曲だろう。曲が静かに日比谷公園に響いていった。
演奏が終わり、カワノが感謝を述べてメンバーがはけていく。

アンコールの拍手が鳴り響く。
少し間をおいて、4人が戻ってくる。
辺りは完全に夜。夜空の上を飛行機が飛び、高層ビルの上階の電気がついている無人のフロアが見えている。
カワノが再び語り出し、ここにいるみんなへの感謝を述べる。絶対に歌っているときは一人一人に向き合って歌ってきた事を切々と語ってくれた。
カワノのデスボイスが夜を切り裂いた。焚かれたスモークとパープル系のライトアップが「葬唱」より怪しく演出させていく。デスメタルとインディーロックを行き来する中で、カワノがデスボイスに至った理由の正しさの解釈を考える。この野音でようやくわかった。このバンドを終わらせない場合のアンサーが「葬唱」だったと。《「愛こそが全て」とか平然と言えるだろう》がCRYAMY物語が続いた場合に起きる、未来予想図だとすると、それを言うためにカワノはデスボイスという武器を片手に本音を吐露したかったのかもしれないと思った。
今宵も月があるらしい「待月」へ。『#4』と最新作共に収録されている曲だが、違いはイントロにカワノのデスボイスが追加された事。やはりCRYAMYが近辺との摩擦係数の高さからの必然だった。その結果、楽曲としてより強度を持って響く様になった。メロとのギャップによる物だろうが。個人的には今回1番ロックとしての肉体性を感じることが出来た瞬間だった。
心から感謝を込めて歌わせていただきます
大事にきいてくれてありがとうございます
とカワノが言葉にして、「月面旅行」へ。
曲の終盤で、カワノがメンバーのマイクを観客の方を向けるという演出もありこの曲がバンドとわたしの歌、という意味合いを強くする意図を感じた。
続く楽曲はオオモリユウトのドラミングから始まり夜を彩るメロの光の粒「プラネタリウム」から、静から動に瞬時に変化する「街月」が月夜を切り裂き。カワノがタイトルを絶叫し「マリア」に。曲の終わりに生きろ、生きろと絶叫。その熱量のまま、ディストーションが響く中、これは世界の歌だとカワノが叫ぶ。「THE WORLD」がこの日1番ステージ上を熱くさせるかの様に、カワノがマイクを引っ掴み、ステージを駆け、最後の歌詞を叫んだ。

3人は捌け、カワノ1人になり、一呼吸。カワノのMC。かっこいいこと言おうとしたけど、大したこといえなくて申し訳ない。意外と大事なことはかっこいいもんじゃないと。体に気をつけて、悪い人もいるけどいい人もいるからとドリフターズのような事を語ってくれた。
カワノがギター片手に弾き語り、真っ暗闇の中、しめやかに「人々」が響き渡った。

4人が揃う。
カワノがMCで訂正しながらも、これは絶対だと言った。
これからも、この曲は正真正銘のCRYAMYとあなたのための歌だと言った。
みんなの歌と思って、俺たちの歌と思って歌う
《あなたが…》
最後になる可能性もあるのかな。10分強もある、しかない、「世界」が確かにココで鳴っていて。わたしたちはきいたCRYAMYと共に。2024年6月16日の夜の8時半前に。長い間奏中にカワノはずっと見てるからと叫び続けていた。
演奏が終わった。ギター・ノイズと拍手が響く中で最後にフジタレイがマイクの前に立つ。そして、割れんばかりの声で、ありがとう!と叫んだ。