LIVE REPORT

CRYAMY

-red album-RELEASE TOUR[建国物語]

渋谷 CLUB QUATTRO

2021.11.14

 

リリースツアーのファイナルである本公演は、『赤盤』と同じく“ten”から始まった。金髪のロングを染め直し、サラサラヘアに仕上げてきたフジタ レイ。長くなった髪を後ろに束ね、おでこを出し気合いの入っているオオモリ ユウト。カワノは生まれたての真っ白さを醸し出し、少し狂い踊り、マイクの前に立つ。いつも通りのタカハシ コウキも顔色はよし。まさに4年に一度の祭典に照準を合わせるように、調子を整えてきた佇まいの彼らから放たれる演奏も、それに等しいものだった。

そんな彼らだったが序盤の演奏後、カワノは、本当はこんなことをするためにここに立ってるわけじゃないんだよと言いだし、ツアーファイナルらしい衝撃的なMCをおもむろに始めた…『赤盤』は自分にとっては敗北のアルバムであり、このツアーはその負けを認めるためのようなものだったというのだ。その言葉を聞いて私は少し合点がいっていた。カワノも納得していなかった、『赤盤』には。その理由は、内面を曝け出して作品にブチ込みたかったが、それが出来なかったという、表現者として100点の答えだった。

中盤、『赤盤』では最後の曲“テリトリアル”の誕生秘話をカワノが口にする。この曲は大好きな人のために書いた曲だったが、結局その人には受け取ってもらえなかった。だから皆さんにあげますと言い、私たちに届けられた。そして曲のエンドロールから、この歌詞の続きのような歌が紡がれたところ、ここにカワノのフォーク的思想が如実に現れていたと思う。

本編のラストが“まほろば”で終わり、ツアーファイナルらしく、アンコールまでの余韻をいつもより長くとった後に登場。カワノはその時、これまでは自分がみんなに救われてきたが、それはもうここで終止符を打ちたい、これからは俺がみなさんを救う番だ。という言葉を吐き出し、“世界”のアップデート版とも言える、エモ・パンクに陽性な歌詞《あなたのために生きる》が乗った新曲が披露された。まさしくカワノが、この日語った一番ポジティブな発言「これからは皆さんが幸せになる瞬間の側にいたい」を端的に表す曲と言えるだろう。

今日のMCは、何かとこれまでの感謝の言葉が多かったが、終盤でようやくカワノの言葉による扇動がライブの佳境を告げる。「命をかける意味なんてない」という、生への渇望を私たちに投げかけ、“完璧な国”へ。その後、最後の言葉の扇動だったと思う「音楽は誰かを救うためにあるべきなんだ」というカワノの叫びが強い思いとともに突き刺さる。そしてラストへ。カワノは最後にと「みんなのことは大好きです」とはっきり明言し、“世界”へと雪崩込んだ。

CRYAMYが『赤盤』を完璧なアルバムにしなかった理由、それはやはり彼がミュージシャンとして生き抜く選択をしたからだと思う。もし『赤盤』が完璧な作品になっていたらバンドは終わっていたのかもしれない。逆説的な話になるが、もしカワノが内面を曝け出したアルバムを作れる時が来たとして、その作品が『赤盤』を超えられるだろうか。ただ、カワノの気持ちの中では未完成なアルバム、そこから生まれたツアー最終日のアクトが…ー彼らが今後、完璧なアルバムを作れるバンドになったとして。また反対に空中分解してしまったとしてもだー…いずれ、この空間にいた全員にとって、決して消える事のない墓標になるだろう。そして、きっと今夜の事柄が《数年後に美化されてそうな》気がしてならないし、それを切に願ってしまうのだ。