DISC REVIEW

佐藤 千亜妃

『声』

―タイムライン・タイムラグ―

名曲の定義の一つは時間を止める力がある事だ。音楽を聴いていると時間は永遠に感じる。それは何故かというと時間が止まっているからなのだ。

きのこ帝国の「東京」は名曲だった。改めて何故名曲なのか考えると、ポップさと夏の息苦しさと胸を締め付ける切なさが、時間を止めていた。まるで名曲の性であるかのように止まった時間はそのままに。

その時間をもう一度進められるのは言うまでもなく佐藤 千亜妃で、「声」はその為の曲になりえる。

《いつもより寒いのは/春の夢を見たから/モノクロの温もりに/ゆらゆら揺れてた》というブリッジの歌詞。希望的な“春の夢”を寒いといい、“モノクロ”に温もりを感じるという逆説的視点は、彼女のアイデンティティを表す。

名曲であれば、また時間を止める。でも大丈夫。この曲も“声が聞こえていた頃”を歌っている。彼女は常に“~前”のことを歌う。そのタイムラグがまるでクロノスタシスのように存在し続けている。