DISC REVIEW

GRAPEVINE

『目覚ましはいつも鳴りやまない』

 

-そして世界から誰もいなくなった?-

 

「ねずみ浄土」と「Gifted」に挟まれた曲が先行公開された。本曲は、R&B色の強い古典的な残香から、本来の彼ららしいロックへの飛翔、その2つを接続する役割をもつ。電子鍵盤やリードギターの軽やかな旋律に、田中和将の英語発音フレンドリーでニヒルな日本語歌詞が乗った、ソウル音楽色の強い楽曲だ。

ソウルとは黒人の同胞意識が原点にある音楽だという。このコロナvs人間という中で、人々の同胞意識は変わったか。今回の歌詞は田中和将の優しさによって、ニヒルさに少なからずブレーキがかかる。現状への配慮か、共感性の高まりか。何れにせよ、それが物悲しさを纏ったソウルと共振する。

同胞意識を取り違えると同調圧力になる。日本でよくある事だ。楽曲の背景から、音の行間を読むと、中世ヨーロッパ宮殿の暗闇から見ている何者かがいる。それは目覚ましを止めようとする人を待ち構える自粛警察なのか。

最後にバンド史上最高に陽性な歌詞《まだ出してない自分を見せるはずでしょ》が放たれる。本当に誰もいない訳ではない。もう気付いて欲しい。その目覚ましを止めるのは、新しいあなたであるという事に。なぜなら、安全だったインダストリアルな世界はもう無いのだから。