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ロック評論家 ROHITOのブログ

DISC REVIEW

長澤知之 『GIFT』

 ―開けて閉めて、開けて閉めて、開けて閉めたら…―

     虚無僧(こむそう)が放送禁止用語だと知ったのは、中島らもエッセイ集『こらっ』の文中からだった。昔々、深編傘を頭からかぶり、顔を隠し、尺八を吹きながら諸国を回る人たちがおったんじゃとさ…。2016年の今、これと似たような人がいる。それは、風邪でもないのに年中マスクをしている若者たちだ。なぜずっとマスクをしているか聞かれると、人と話をするときも、安心感がある。友達と喧嘩した後の気まずさを紛らわす役目もあるという。コミュニケーション過多な世界の中で私たちは、また一つ大切なものを失ってしまったのかもしれない。結局、頭隠して尻隠さずになっちゃっているのよ。
 いくら隠しても無駄!ってことが言いたいのでは無いけど。長澤知之の『GIFT』という作品は、もちろんそんな大昔の話を歌っているのではなく、かといって、バリバリの今を切り取りたいという風でもない。言うなれば、今年32歳の長澤の視点は、少し前の時代を知る者が見据える、現在への冷めた視点と虚無感、そして、ある意味の開き直りから生まれてきた音楽だと言える。
 今作の全体像は、今まで以上にロックなテンション、いつになく陽性な和音が垣間見える。(少し含みのあることばとして言っておく)また、7曲中1曲「風鈴の音色」では、自身がボーカルをとらず、という衝撃点もあった。この曲こそ、CDの帯のコピーにある“かつてないスタンダード”に当てはまる曲だと思うが、あえてこの曲を歌わないのが長澤らしい。
 今年の動きとして、もう一つのキーポイントは、ex. andymoriメンバーとタッグを組んだ、ALでの活動。おそらく小山田壮平が発起人だったのであろうバンドだが、少なからず長澤にも良い影響を与えたことは言わずもがな。その一つは、先述した彼の陽性な側面をもう一度煽ったという言い方が正しいかは分からないが、それに引きずられる形で、柔和な攻撃性を取り戻した気がする。
 歌詞についてはいつもの長澤節ではあるのだが、少し気になるところもある。それは1曲目「時雨」の“帰り道決意を迷いながら/次の家路をさがしてる”や「風鈴の音色」の“ああ ふるさとよ この胸に還る場所/ああ なにもかもが おしまいにかわる場所”という部分。一つのプラットホームに立ち、行き先を思案している。そんな心の揺れ動きを表現しているかの様な言葉。デビュー10周年を迎え、彼自身もまた転換期に立たされているのだろう。
 どれだけ隠そうとしても、隠せないもの。例えば、長澤知之の音楽はロックだけど、やっぱりなんやかんやいうて、彼はフォーク・シンガー。音の端々から滲む悲哀を隠すことは出来ないのだ。それが長澤の音楽の素晴らしさでもある。これからもエレジー続けましょう。