DISC REVIEW

踊ってばかりの国

『私は月には行かないだろう』

―錠剤と戦争とレゲエ―

 

 時として、歌詞にサリンジャーを使ってしまうのはありふれたものになってしまうのだが、戦争に対して並々ならぬ思いを持っている作家と同様に、戦争に対しての言葉を紡いできた下津光史が交差することは、作品にとって重要なことだったと言える。

今作は言うなれば、BUMP OF CHICKENの『COSMONAUT』のような現時点の自分自身の立ち位置を明確にした作品である。また、BLANKEY JET CITYが初期のリアリティからファンタジーを表現する歌詞世界から、ファンタジーからリアリティを感じさせる歌詞世界に移行したときのような、本作は彼等にとってそういった端境期に位置する作品だとも言える。

タイトルの様に、なぜ下津光史は月には行かないだろうと言うのか。やはりそれは、バンプの「Stage of the ground」冒頭の歌詞《飛ぼうとしたって/羽根なんか/無いって/知ってしまった/夏の日/古い夢を一つ/犠牲にして/大地に立っているって/気付いた日》に答えがあるように思う。

今この地球で音楽家として伝えることがある。彼らは、錠剤と戦争にまみれたこの大地に風を吹かせるかの如く、喜びの歌をレゲエに乗せて歌い続けるつもりなのだろう。