DISC REVIEW

くるり

『天才の愛』

 

―2021年、ふりかえればヤツがいない―

 

くるりの13枚目のアルバムは振り返らずとも愛の作品だと分かっていた。先行配信曲、本作の題名からも明らかだろう。

では今回、愛というワードに込めたものは何だったのか。それは、2020年に存在しなかったモノたちへの想いだ。「野球」にある球場での応援も無かった。「益荒男さん」みたくモーレツ社員はとうの昔から居なかった。「大阪万博」にある高度成長期や未知との遭遇はもう無かった。「watituti」にある男視点のエロさも無かった。「コトコトことでん」の電車の旅も無かった。「ぷしゅ」という音を居酒屋で聞くことも無かった。無い無い尽くしだった2020年の具材が、ミュージック・コンクレートへと変化している。これは言うなれば、くるり的ASMR作品とも捉えられるし、何かしらの密室感を表現する事で、2020年の情景をふりかえり集約したものになっている。

事実は小説より奇なりというが、アーティストは常に現実を超越したものを作る事が使命である。くるりはこの作品でリアルを超えられたのだろうか。ご飯は米が良いのがおいしいし、コーヒーは豆が良いのがおいしいし、お茶は葉っぱが良いのがおいしい。愛もほんとの愛だから愛おしいのだ。

『天才の愛』は現実を超えたんだと思う。何故ならこのラブソングたちからは、ほんとの愛が感じられるからだ。最善の方法を彼等は理解していた。ほんとの愛にはどんな具を乗せても結局はおいしい。それがどんな事実でも。

ところでそのASMRってほんとの事かい?だから言ってるじゃないほんとの愛を持って接すればすべて愛おしいって。くるりとふりかえれば、同じかも。天才とバカは紙一重って言うしね。