DISC REVIEW

lyrical school

『Time Machine』

―フィメールラッパーは笑わない―

ハルカリも上松秀実もクールだった。そして同じようにlyrical schoolもクールになった。本曲のクールなトラックとリリックを歌う彼女達は2020年代的だ。

リリスクが始まった2010sは時代的にシリアスなものが求められていた。ブラックミュージックの再考、つまりは根源的な音楽への回帰だったが、そのモードがリリスクにそぐわなかった。

だが、2020sはポップ音楽が再度エンタメ的機能を求められる周期になる。その要因の一つがコロナだった。それに対する起爆剤として人々が音楽のエンタメ性を求める予感がする。まるで予言するかのように、シリアスな表現者であるKOHHやぼくりりが日本のヒップホップ前線から去った。

リリスクがクールになったもう一つの要因は、フェミニズムへの方向転換。つまりは、ターゲットを同世代の女性にも広げる事。ユニット名の主題だった、ラップ挑戦者を増やすねらいにもリンクし、総合的にこのクールなリリスクが2021年のムードと合致していくはずだ。

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80KIDZ&AAAMYYY

『Magic』

―謎解きはパンデミックのあとで―

80KIDZのAL『ANGEL』から先行配信されたAAAMYYYとのコラボ曲。作詞がAAAMYYY。作曲が80KIDZのメンバーJUN、ALI&との共作。

AAAMYYYにスポットを当て本曲を捉えると、昨年のShin Sakiura feat.AAAMYYY 「このまま夢で」の続編のように機能している。

冷厳なシンセサウンドを背景にコンテンポラリーR&Bのリズムで、彼女のセンチメンタルな歌唱が《この一生解けない魔法を/止めないで踊らせて》と伝える。

AAAMYYYのソロ作品群からはアバンギャルドな匂いがするが、その傾向はコラボ作ではマイルドになるよう。歌詞をストレートに捉えれば恋の魔法が解けないでほしいという事になるが、彼女のソロの視点みたく穿った見方をすると…。

“Magic”には、SNSによって世界が繋がった事で生まれた煌びやかな人口パラレルワールドが、儚くも崩壊していく様を後ろ髪を引かれる思いで見ている情景がある。それは同時に2010年代の完全な終幕を意味するのかも。

《7回目のベル》「Automatic」と《深夜1時》「Magic」が繋がった時2020年代の始まりを告げる?

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BUMP OF CHICKEN

『Flare』

―《全て君が正しい》もう一度、ハートに火をつけて―

近年のバンプのテーマは『ユグドラシル』の再定義にある。改めて振り返るとAsgard:神の世界から始まり、Midgard:人間の世界で終わる。この二つのギターソロが繋がり円環は閉じる。

「Flare」もPreludeとCodaのごとく、ギターソロが配置され、円環が閉じる。これも一つの『ユグドラシル』の具現化だと言える。

そして藤原基央が歌う"Flare"の意味が《どんな落とし物しても 全部 塗り潰す朝》と《どこにいるんだよ ここにいたんだよ/ちゃんと ずっと ちゃんと ずっと》との対比で見えてくる。

"Flare"は暗闇では見えるが朝になれば塗り潰される。でも、ちゃんといるのだ。つまりそれはバンプ自体を表す意味も含まれる。本曲は25周年を歩き始めたバンプのリスタート曲とも言える。

何かにつけて新しい灯を求めざるを得ない2021年。私達は何度も彼等の描く神懸った光に勇気をもらってきた。でも、もう何十年もバンプを聴いてきた方なら気が付くべきなのだ、もうその炎は人間である、あなたの中にある事を。

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足立佳奈

『まちぼうけ』

-21才の足立佳奈が歌うべき事とは何カナ?―

2017年デビューのZ世代SSW。パワフルな応援ソングの歌い手から徐々に変化してきた彼女。2021年最初の配信SGは明確な分岐点になった。

「話がある」や「二子玉川」での洗練されたエモさにその予兆はあった。古典的な言葉を使うなら、”大人になった彼女”という解釈になるが、Z世代には新方程式が必要かもしれない。

本曲のエモーショナルポイントは《欲しいのは恋人じゃなくて/君だって/君なんだって/君じゃなきゃダメなんだ》がヒップ感のあるリズムで歌われる部分。この歌詞にある微妙な違和感を辿ると、意外な地点に帰着する。

それがジェンダーレスという視点だった。これをZ世代感の歌詞と捉えるなら、結果的に全世代に理解出来てしまうような、ポップミュージックのマジックが存在している。

”まちぼうけ”という、むしろZ世代からは出てこないワードをZ世代の必然的な主題として成り立たせてしまった。足立佳奈が歌うべき事がそこに存在しているのカナ。

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CRYAMY

『YOUR SONG』

―英雄なき世界へ向けた言葉―

5曲入り3rdシングル。ツアー再開後発売の本作はコロナ過の閉塞感を適切にロックへ昇華する。

1曲目弾語りは初。「HAVEN」では《どこかに行きたいのに/どこにも行けない》という歌詞が2020年に立向う姿勢を占う。2ndシングルの「ディレイ」の傾向を引継ぎミドルテンポの曲が続く。「N・N・K」という意味深な曲は体制への批判と自身の批評をかけ《迎えは来るのでしょうか》と歌うブラックユーモアなロック。続く「くらし」はロックの定番歌詞《あるがままに/なすがままに》と歌うポストグランジ。次が「死体」という恐ろしい曲で歌詞も《殺してやりたいほど憎い人がいて》と歌うシューゲーザー。録音がカワノ家で納得。最後は前4曲が嵐の前の静けさの如く《ただ言葉足らずを許し合って/あなたのためにと微笑んだ》とエモコアで「まほろば」を歌い切る。

英雄なき世界の今、そこにいるあなたに届けようとするCRYAMYのロックはポップミュージックとしての正しさを表す。

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CRYAMY

『GUIDE』

―37.4℃の現在地―

彼等の4曲入り2ndシングル。コロナでライブが延期になったことで急遽作ることになったことを考えれば、その意味も含まれているのかもしれない。

「ディスタンス」再録(1st EP「#2」収録)では、ボーカル強め、各楽器のアンサンブルも強めで、より四方八方に弾け飛んでいるようで、コロナ過というものに向き合う感情を彼らなりに表しているともとれる。そして次の「誰そ彼」。《あなたと私がいた黄昏》という歌詞が歌われるロック。これがCRYAMYというバンドの歌う意味、骨子みたいなものが結実した地点だと思う。続いて「ディレイ」は《君が特別だったんだ》と歌うミドルテンポのロックバラード。ラストは《最後は見つめ合ってるだけ》と2020年の状況を俯瞰しているともとれる歌詞を歌う「戦争」というタイトルの弾き語りによるラブソング。

自主レーベルを立ち上げ後の本作は、「#3」で予兆があった“あなたと私”という歌うべき主題が結実した新たな始まりでもある。

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CRYAMY

『#3』

―あなたはもう忘れたかしら― 

6曲入り3rd EPで、CRYAMYが描くロックとは何かが明確になった。

6分49秒の「世界」。古典的なロックの律動とエモでポップな旋律、それに最適な声質が日本の70sフォークソング的抒情詩を描く。間奏からの《街を照らすボロいパチンコの灯りが夕焼けを食って空を塗りつぶすのならば/そこで踊ってほしい/だだ踊ってほしい/ドレスじゃなくたって/ジャージを着てたって》の部分が今は無き世界を魅せる。

その後に3分前後の曲が続く。アップテンポなロックンロール「sonic pop」、エモでパンクな「easily」。ポストグランジな「正常位」。

佳境は7分19秒の「月面旅行」。《どうにか僕らは生きている/生きているから傷ついてる》。普遍的な歌詞で気付かせ、合点出来るのがCRYAMYのロックの特長。最後は「プラネタリウム」。《私とあなただけ》と、CRYAMYの主題をバウンス感のあるロックで締める。

《よほどのことではない限り誰も死なずにすんでいる》世界を忘れずCRYAMYはこれからも歌う。