DISC REVIEW

DIR EN GRAY
PHALARIS


ー過去のDIRの住人が求める答えと世界がDIRに求める答えが遂に交わる時ー 


ーーー世界がDIR EN GRAYに追いついた…と先ずはパロってみよう。そんな常套句を使うまでも無く、本作が彼らの最高傑作である事については露程も疑いは無いのでは。特に、アルバムとしての完成度が過去最高という意味に比重を置きたい。低音と高音及び強弱、BPM、曲とトータルの長さ、そういった音楽を司る全ての要素がフィットしている。DIRがこうあるべきという姿と完璧に合致し、且つ2022年の時代性に即したポップとして鳴るべき音が体現されている。

何故そこに至ったかと考えてみると、やはり、V系へのラブソング作『ARCHE』とロックな肉体性の解放作『THE INSULATED WORLD』を経た事が重要だったのだと、今更ながらひしひしと感じている。簡単に言うと、前者は昔からのDIRの住人に渇望される音で、後者は世界がDIRに求める音である。つまり、その行程を終えた事で、どちら側も満足出来る折衷案というべき答えが提示できた。それが本作だ。

神回を作るべからずと言っていたのは、松本人志である。音楽家も同じ運命なのは言わずもがなかな。しかし芸術家たるもの、そうは問屋が卸せるはずもない。DIRの神回は『UROBOROS』を最大瞬間風速とする前後の作品辺りだと私は考える。遂に今回、それを更新したと言っていいだろう。神回を作ることほどアーティストが自身の首を絞める罪深い事はないというのに。

10年に一度の傑作を作る罪と罰とは…
もちろん罰は、敢えなく昇天してしまう事への恐れ。しかし、もちろん彼らもわかっているのだろう。バンドとして長くサバイブする方法は色々ある。自身のパロディ化や自身を批評対象化するなどなど…。今回、彼らが罰をすり抜けるために選んだ方法とは、DIRの音楽自体を様式化し、今、求められる音に最適化すること。ロックの様式美は罪深いが、処世術であれば必要悪なのである。幸か不幸か、先住民と開拓者の双方が許せる答えが最適化されたDIRだったのだ。結果的に、彼らの音楽の蘇生法にもなっているという、個人的に一番嫌いな言葉だが、三方にとってWin-Winな答えなのだろう。本作が最高傑作である一番の理由、実はコレだったりする。